オリンピック後のマンション価格について考えてみた(前編)【2LDK】

先日以下のようなツイートをしました。


簡単にまとめると…

  • 2005年以降首都圏の新築マンションの年平均価格が前年比で2%以上下落したのはわずか2回。2009年と2011年で前者はリーマンショック、後者は東日本大震災が影響。
  • 将来的にマンションの価格が下がる可能性はゼロではないものの、マンション価格が落ち込む時にはそれ相応に検討者の心理が冷え込む事象が起きており、そのタイミングでマンション購入を決断するのは容易ではない。
  • 今、マンションが必要なのに、将来の価格値下がりを期待して購入を見送るのは得策とは思えない。
では、「今後のマンション価格はどうなっていくのか?」について私なりに予想してみたいと思います。

結論

早速結論ですが、これから数年は「グロスは微増、単価は上昇」というトレンドが続くと予想しました。(繰り返しますが、これは私の勝手な予想です)

結論は以上なのですが、それでは面白みがないので、そう考えた根拠について整理してみたいと思います。尚、本予想については基本的に首都圏を想定しています。

供給目線

まずは、供給サイド(デベロッパー)の目線から。尚、私は不動産業界に縁もゆかりもない素人です。専門的なことは分かっておりませんので、ご承知おきください。

基本的には新築マンションの供給数は減少傾向であり、そのトレンドは今後も変わらないと思っています。

2009年はリーマンショックの影響もあって新築マンションの販売が落ち込んだ年ですが、2020年(27,200戸)は2009年(36,400戸)の74%しか新規販売は行われておりません。(三井不動産のIR資料のグラフがわかりやすかったので、引用させていただきます。)

三井不動産IR資料より画像引用


駅近立地の人気っぷりは変わらない一方で、駅近立地には限りがある上に、その希少な土地もマンション以外の用途(ホテル・オフィス)と競合することになり、分譲マンション向けの用地が潤沢にある状況ではありません。コロナの影響で本社ビル売却等の話がもっと出てくるかと思っていましたが、ニュース等で見るレベルではその影響も軽微だったという印象です。

加えて現在首都圏の新築マンションの大半を供給しているのはメジャー7と呼ばれる大手デベロッパーです。彼らは資金力もあるので、市場への供給量をコントロールし、高値販売を継続させたいモチベーションがあります。

不動産経済研究所より画像引用(首都圏エリア 売主・事業者別発売戸数ランキング上位20社)


大手のデベロッパーの多くは上場企業ですので、株主からは持続的な成長を求められます。用地取得は期待できない中で、持続的な成長をするためには以下が必要です。
  • 売上を上げる
  • 経費を抑える
「経費を抑える」については、最近の新築マンションはコストカットが進んでおり、限界を迎えつつあるように思います。となるとできることは「売上を上げる」ことになるわけですが、限られた用地(=開発)の中で売上を上げるためには以下が必要です。
  • 価格を上げる
  • 供給戸数を増やす
「価格を上げる」、所謂プレミアム化ですが、そのためには当然それに見合った付加価値が必要です。デザイン性の高い外観・豪華な中庭・便利な共用施設やサービス等、検討者が納得できる価値提供が求められます。最近の新築マンションでもその傾向が出てきているように感じていますが、今後はプレミアム化が進んでいくと思います。

続いて「供給戸数を増やす」は、1戸あたりの面積を削っていくことで同じ用地内での供給戸数を増やします。1戸あたりの面積を削っても、坪当たりの単価が変わらなければ、売上は変わらないので「面積を削ること」と「単価を上げる」ことはセットになります。結果的に面積は小さくなったけど、グロスの金額は変わらないといった事象が発生します。(70㎡で7,000万が67㎡で7,000万になるイメージ)

こちらも単に面積を削るだけでは、検討者に受け入れられませんので、検討者が腹落ちするストーリーが必要です。専有部の面積を削る代わりに、共用施設を充実させたり周辺商業施設の利用を促したりして、自宅に求める機能の一部を共用施設等にアウトソーシングするような流れが進んでいくものと思われます。

「価格を上げる」のようなプレミアム化はどこにでもハマるものではないので、好立地マンションに限られますが、「供給戸数を増やす」は既にその傾向が見られていますし、今後多くのマンションで起こってくると予想しています。5%価格を上げるよりも5%面積を削るほうが、検討者のインパクトは小さいと想定されるためです。(53㎡の2LDKや67㎡の3LDKが増えていきそうです。)

都心好立地はプレミアム化により価格が押し上げられ、全体的な面積縮小・単価増が起こることで、結果として「グロスは微増、単価は上昇」となります。

というのが供給サイドからみたシナリオです。

しかしマンション価格は供給サイドの都合だけで決まるものではありません。需給のバランスがあって初めて売買が成立しますので、需要サイドのシナリオも必要です。

需要目線

ということで、続いては需要サイド(購入者)の目線です。

最近、高価格の新築マンションが次々に売れているのは以下2つの要因があると考えています。
  • 購入予算の上昇
  • +1部屋需要の上昇
とどまることを知らない価格上昇傾向の新築マンションですが、「購入予算の上昇」に大きく関係しているのは以下の2点です。
  • 超低金利の住宅ローン
  • 税制優遇
まず「超低金利の住宅ローン」です。マンション購入者の多くは住宅ローンを使っていますが、超低金利が続いているため、積極的に借り入れをしやすい環境です。同じ7,000万のマンションを35年フルローンで購入したとしても、金利0.5%なら18.2万/月ですが、金利3%なら26.9万/月と8.7万も毎月の支払い額が異なります。金利0.5%の場合、1億円借りても毎月の返済は26万/月で、金利3%で7,000万を借りた場合よりも安いです。結局毎月支払いできるか否かが検討者の予算設定においては重要なので、低金利が続いていることで検討者の購入予算が上昇してきていると思います。

続いて「税制優遇」です。住宅ローン控除等の税制が優遇されていることも、購入予算上昇の後押しをしています。住宅ローンの金利が変動金利で0.5%前後の中、住宅ローン減税は借入額の1%が控除対象となっており、うまく制度を活用すると支払う金利よりも減税効果の方が大きくなるという逆ざやが発生しています。さらに共働き世帯がペアローンで借り入れをすれば、双方に減税の恩恵があるため、夫婦それぞれペアローンで目一杯借り入れをするのが、最も合理的となる仕組みになっています。結果として、予算を上げてペアローンで都心の高級マンションを購入する動機づけになっていると思います。

裏を返せば、「住宅ローン金利」と「税制」の改悪があれば、検討者の購入予算は下がるはずです。

金利については、日銀黒田総裁の任期となる2023年までは大きな変更はなさそうですが、それ以降は分かりません。税制優遇については、軽度な改悪は近い将来起こりうる可能性があります(参考記事)が、いずれにしろ急激な変更は社会に与える影響も大きいため、変わるとしてもじわじわと変わっていくものと思います。つまり「住宅ローン金利」と「税制」の改悪によって劇的にマンション価格が下がることは想定しづらいです。

これから金利や税制がさらに良くなることも考えづらいため、これ以上の購入予算の上昇はあまり期待できないと思います。購入予算が上がらない以上はグロスの販売価格の伸びしろは限定的となるはずです。

続いては「+1部屋需要の上昇」ですが、これはコロナが大きく影響しています。マンション購入の観点で大きな変化は、在宅勤務が増えたことです。在宅勤務が増えたことで、自宅に求める機能の中に「在宅勤務ができるスペース」が追加となった人は多いと思います。(私もその一人です)もともと自分専用の部屋のような「在宅勤務ができるスペース」を持っている人ばかりではなかったはずなので、コロナによって在宅勤務を行う為の+1部屋のニーズが確実に増えたはずです。この+1部屋を求めた人達が新たに住宅購入を検討したことにより、需要が増えたと考えています。


特に大変なのは、共働きで双方在宅勤務のある家庭です。全くの無音で在宅勤務ができるのはごく一部の業種であり、多くはweb会議や電話等の音が発生します。またいくら夫婦とはいえ、会社が違えば、お互いの情報を公開するわけにはいかないので、それぞれに個室が必要となります。となるとお互いの個室+寝室と考えると夫婦二人子無しでも最低3LDKが必要になります。子どもがいれば、子ども部屋も必要になってくるので、その部屋を考慮すると4LDKが必要になってきます。

従来、合理的に考えて小さめの2LDKに賃貸で暮らしていたような共働き世帯はこのコロナ禍で非常に困ったと思います。結果的に今まで購入を検討していなかった共働き世帯が購入にシフトしたことで、高世帯収入の検討者が増えていると考えられます。

この需要は当面続くと考えています。コロナがいつ落ち着くかはわからないですが、コロナを機に在宅勤務の理解が進んだことは間違いなく、今後も在宅勤務が続く方もいると思います。そうでない人も一度コロナを経験したことで、今後何かあった時のために区切られた部屋を求める人は増えると思います。結果的に小さく細切れでも良いので、部屋の数を求めるニーズは増えていきそうです。(65㎡の2LDKではなく、67㎡の3LDKを検討する人が増えていくイメージ。)

中古マンション

尚、中古マンションについては、
  • コロナによる特需ですぐ住むことができる中古マンションに一時的に需要が集中したこと(需要の増加)
  • 転勤や出産等引っ越しの要因となるイベントが抑制されたことで、売りに出る数が限定的であったこと(供給の減少)
  • 新築マンションの高値に引っ張られたこと(価格の上昇)
が重なって在庫減・価格増が続きましたが、コロナ特需も多少落ち着き、今まで止まっていた転勤が今後再開すると売りが増えてくるであろうことから、少し価格は落ち着きそうです。といっても新築マンションの価格が中古マンションに与える影響は大きいので、価格の調整はあるものの大きな下落はなさそうです。

中古のマンションの供給増が新築マンション価格に与える影響は軽微だと考えています。現在首都圏では大手デベロッパーによる供給が主となっており、大手デベロッパーは時間をかけてゆっくり販売を進める資金的な余裕があるためです。価格下落の兆しがあれば販売数を抑制し、価格をコントロールすることが可能です。

デベロッパーにとって最も避けねばならないのは単価下落トレンドに突入し、検討者が購入を見送るモチベーションが生まれることですので、単価は下落させないよう知恵を絞ってくると思います。

まとめ

  • プレミアム化と面積縮小化による「グロスは微増、単価は上昇」のトレンドが続いていくものの、住宅ローン金利や税制の改悪によって価格下落となる可能性はある
  • 住宅ローン金利や税制の急激な改悪は想定しづらいことから価格下落があっても影響は限定的
  • 部屋の「大きさ」よりも「数」を求めるニーズが当面続くと予想されるため、小さく部屋が刻まれた間取りが増えていきそう
ということで、私なりに将来のマンション価格を予想してみました。次の5年、つまり2026年頃まではこんなトレンドになるのではないでしょうか。

業界関係者でもない一般人の妄想に過ぎない予想ですので、予想があたるかどうかは分かりません。ただ未来を予想し、それに備えて対策を進めていくことは決して無駄ではないと思います。そして未来の予想を今後のマンション購入にどう活かしていくかという視点も重要です。

後編予告

長くなりましたので、後編に続きます。後編では「グロスは微増、単価は上昇」のトレンドを見据えた、オリンピック後のマンション選びについて考えてみたいと思います。

オリンピック後のマンション価格について考えてみた(後編)

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首都圏エリア担当。記事を見てマンション買いました!と言っていただくことが最近の生きがいです。読者の方のマンション探しのお役に立てるよう日々発信しています。

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2 件のコメント

  • ロマンスの神様 より:

    読み応えのある記事をありがとうございます。
    グロスは微増との見方に賛成ですが、上がる場合があるとしたら、35年超えたローンが一般的になるとかですかね?
    (現実的ではないものの実現すると怖い…)
    後編も楽しみにしております。

    • 2LDK より:

      ロマンスの神様さま
      コメントありがとうございます!
      金利/税制に変更無しの前提だと、デベロッパーの供給戸数が増えない限りは微増していくと思っています。

      金利が上昇した時の冷え込みを回避するために35年超えローンが普及する可能性はありますね。(金利上昇しても支払額を増やさないために)
      価格上昇要素というよりは価格下落を抑制する要素としてはあり得るような気がします。

      後編、現在作成中ですので今しばらくお待ち下さい!!

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