1章 山科駅前は、思っていたより面白い
山科駅に降りる。
JR、地下鉄、京阪が集まる駅前には、ラクト山科がある。
大丸山科店があった頃には、近づくこともほとんどなかった。
ところが2019年11月、無印良品が開業してから、一気にラクト山科が魅力的に見えるようになった。
無印良品なのに、生鮮食品が売っている。
店内には寿司店があり、パン屋があり、フードコートまである。
無印良品を見に来たはずなのに、いつの間にか食事まで済ませてしまう。
駅前に必要なものが、意外なほど揃っている。
ユニクロもある。
ロフトもある。
ニトリもある。
山科駅前は、いつの間にか「通過する場所」から「わざわざ立ち寄る場所」へ変わっていた。
そんなラクト山科で、今、新たな動きが始まろうとしている。
かつて「ラクト健康・文化館」と呼ばれていた場所(ラクトB5、6階)には、子どもたちの遊びと学びの拠点となる施設が整備される予定だ。
商業施設だけではない。
駅前に人が集まり、買い物をし、食事をし、子どもたちが過ごす。
山科駅前は、少しずつその姿を変えている。
とはいえ、駅前を離れると、すぐに別の山科が現れる。
昔ながらの商店街があり、
駅の北側には疏水が流れている。
駅から少し歩いただけで、街の喧騒が遠のいていく。
山科には、駅前の便利さと、静かな住宅地が同居している。
そして、JRなら京都駅まで一駅。
地下鉄東西線で京都市中心部へつながり、京阪も走る。
東へ行けば、もう滋賀県大津市だ。
「京都の郊外」と一言で片付けてしまうには、少し便利すぎる。
では、この街はこれからどうなっていくのだろう。
駅前を出て、少し歩いてみることにした。
2章 駅から少し歩けば、別荘地のような山科
山科駅前の賑わいを離れ、静かな商店街を歩く。
以前、「京都で一番うまいラーメンがある」と勧められて訪れた千成餅食堂 山科店は、昼過ぎにはすでに売り切れていた。
結局、二度目の訪問でようやく味わうことができた店だ。

2024年9月撮影 中華そば目当て来店する方も多いため早めに来ないと「売り切れ」てしまう
その店の前を通り過ぎると、商店街には新しい店も増えている。
「新時代」のような新規出店がある一方で、昔ながらの店も残る。
ガールズバーの看板も見え、昼と夜でまったく違う表情を持つ街であることが想像できる。
駅前とは異なる顔を持つ山科が、ここにはある。
駅の北側へ向かい坂道を上ると、徐々に喧騒が遠のき、住宅地の中に緑が増えていく。
やがて山科疏水が現れ、水辺に沿って静かな景観が続く。
駅から徒歩圏内でありながら、空気が変わったような感覚になる。
山科は単なる交通利便の街ではないことが、この風景から伝わってくる。
洛中から見ると、一山越えた山科は心理的に遠い。
けれど、実際に歩き、不動産を見ていると、その距離感と価格には少しズレがある。
山科駅前では、新築マンションが5,000万円を超えることも珍しくない。
戸建分譲も含め、決して「安い郊外」というだけではない。
その背景には、明確な理由がある。
まず交通利便性だ。
JRで京都駅まで一駅。地下鉄東西線で京都市中心部へ直結し、京阪京津線も利用できる。
さらに東は大津、南は宇治方面へとつながり、京都と滋賀、京都南部を結ぶ交通の結節点となっている。
加えて、駅前の利便性と、少し歩けば疏水と緑に囲まれた静かな住宅地が共存している。
便利なのに、静か。
京都駅まで一駅なのに、少し歩けば別荘地のような風景が現れる。
このバランスが、山科の住宅地としての魅力なのだろう。
そんな場所に、現在販売されているのが「ドルチェヴィータ京都山科」だ。
地上3階建・総17戸。
山科疏水沿いの特別修景地域、第一種低層住居専用地域という静かな環境に建つ低層マンションだ。
駅から徒歩8分、JRで京都駅まで一駅5分という利便性を持ちながら、目の前には高層建築ではなく、疏水と緑、低層住宅が広がる。
販売価格は6,590万円から1億880万円。
住戸は69㎡台から90㎡台まで用意されている。
「京都駅から一駅」という利便性と、「別荘地のような住環境」。
その両立を求める人にとって、山科は単なる郊外ではない。
洛中から感じる距離と、実際の暮らしや不動産価格。
その間には、少し不思議なズレがある。
そして、この街にはまだ大きな変化の余地が残されている。3章 外環状線を歩く。山科にタワマンは建つのか
外環状線を歩く。初めて歩く。
車でしか通ったことのない道だ。
ロードサイドに店舗が並び、車が行き交う。
歩くための街ではない。
そんな印象を持っていた。
そんな外環状線沿いに「ジオ京都山科」がある。
新築時、70㎡台で4,500万円前後からだったと記憶している。
そして、何より驚いたのが、駐車場がないことだった。
山科の外環状線といえば、車があって当たり前。
そんなイメージを持っていたからだ。
実際、販売時にも「駐車場がない」ことを気にする声はあった。
ところが、販売は進んでいく。
「駐車場がないから苦戦するのでは」という見方に対して、実際には売れている。
これには驚いた。
「山科=車がないと暮らせない街」という自分の思い込みが、少し揺らいだ。
駅に近い。
地下鉄「山科」駅まで徒歩3分、JR・京阪山科駅も徒歩圏。
京都駅まで一駅。
ラクトには無印良品をはじめ、日常の買い物に必要なものが揃っている。
外環状線沿いにはロードサイドの店舗も多い。
車がなくても暮らせる。
いや、正確には、車を持たないことを前提に選ぶ人がいる。
そこに、山科駅前の住宅需要の強さが見える気がした。
そう考えながら、さらに外環状線を歩いていく。
そして、閉店を迎える西友山科店へ。
失礼ながら、外観を見ているだけでは、少し寂れた印象を持っていた。
今回、初めて中に入る。
入ってみると、どこか懐かしい。
子どもの頃、親に連れられて行ったダイエーやジャスコを思い出した。
最新の商業施設とは違う。
でも、こういう店が街の中に長く存在してきたこと自体が、山科の歴史なのだろう。
そして夏休みの子どもたちとその親で賑わうマクドナルドでアイスコーヒーを飲む。
西友の南側には、小さなアーケード商店街「ジャンボ一番街」が続いていた。
歩いてみる。
人はいない。
西友もまもなく閉店する。
山科の街の景色が、少しずつ変わろうとしている。
そして、ここからが少し気になる。
山科の外環状線沿道では、2023年の都市計画見直しによって、一定の要件を満たし、市長の認定を受けた建築物について、高さの最高限度が無制限となった。
「山科にタワーマンションが建つかもしれない。」
そんな“タワマン待望論”が出てくるのも分からなくはない。

京都市 資料
ただ、実際に歩いてみると、別の問題が見えてくる。
タワーマンションを建てるには、まとまった土地が必要だ。
外環状線沿いには建物が並び、ロードサイド店舗や既存の住宅も多い。
高さを無制限にしたからといって、すぐにタワーマンションが建つわけではない。
では、なぜ京都市は、そこまでして高さ規制を緩和したのか。
京都市は外環状線沿道を、若い世代をひきつける新たな魅力を創出するエリアと位置付けている。
つまり、タワーマンションを建てることそのものが目的ではない。
住宅をつくる。
人を呼び込む。
そのために、これまで建てられなかった場所で、より高度に土地を使えるようにする。
そう考えると、山科だけの話ではなくなってくる。
京都の中心部では、土地が限られている。
新しく住宅を供給しようとしても、まとまった土地を確保するのは難しい。
一方、郊外の駅前や鉄道沿線には、まだ土地の使い方を変えられる場所がある。
向日市のJR向日町駅東口では、駅前再開発によって地上38階、高さ約130m、約340戸の住宅棟が計画されている。

2026年5月26日撮影「J.GRAN TOWER 京都向日町」計画地
山科でも、向日町でも、駅を中心に土地の使い方が変わろうとしている。
洛中だけを見ていると、京都の住宅事情は見えにくい。
中心部の土地が限られ、価格も上がるなかで、住宅を供給する場所は少しずつ外へ広がっている。
京都駅の東に山科があり、西には向日町がある。
その先にも、また街がある。
京都という街は、中心だけでは完結しなくなっている。
人の住まいも、街の機能も、少しずつ外へ広がっていく。
街は、外へ広がるしかない。
山科の外環状線を歩いていると、そんなことを考えてしまう。
4章 椥辻のポテンシャル。白い壁の向こう側
五条通を越え、さらに外環状線を南へ進む。ロードサイドに店舗が並ぶ。
マクドナルド、イオン、王将、山科区役所、ドン・キホーテ。
このあたりまで来ると、もう「椥辻」だ。
地下鉄東西線の椥辻駅があり、日常の買い物に必要なものも揃っている。
山科駅から少し離れているとはいえ、生活拠点としては十分な立地だ。
しかも、駅徒歩圏内でも山科駅周辺と比べれば、マンションや住宅の価格はまだ手が届きやすい。
そんな椥辻の街を歩いていると、ひときわ大きな存在が現れる。
京都刑務所だ。
白い壁が延々と続く。
数年前、刑務所が移転するという話を聞いたことがあった。
その後、具体的なニュースになることもなく、今もここにある。
しかし、地図を見れば、その広さに驚く。
この場所が、もし将来動くことになれば。
椥辻だけではない。
山科の街の景色そのものが、大きく変わる可能性がある。
もちろん、移転が決まっているわけではない。
だからこそ、今は「もし」の話だ。
けれど、椥辻にはすでに地下鉄がある。
イオンがある。
区役所がある。
ドン・キホーテがある。
ロードサイドには生活に必要な店が並んでいる。
住宅もある。
そして、その中心に、広大な土地が存在している。
それだけでも、街の将来を考えるうえで気になる場所だ。
そして最近、もう一つ気になる動きが始まっている。
京都市が進める地域活性化プロジェクト「meetus 山科-醍醐」だ。
山科・醍醐を舞台に、地域の魅力を掘り起こし、人や企業、地域をつなぎながら、エリアの価値を高めていく取り組みだという。
山科駅前だけを見ていると、山科は「駅前の街」に見える。
けれど、南へ歩いていくと、椥辻というもう一つの生活拠点がある。
その先には、広大な京都刑務所の土地もある。
今すぐ何かが変わるわけではない。
それでも、山科駅前だけではない山科の姿が少しずつ見えてくる。
山科の未来を考えるなら、駅前だけを見ていてはいけない。
南へ歩いてきて、ようやくそんなことを思った。
5章 そして、ラーメン天へ
椥辻から、この日のゴール「ラーメン天」へ向かう。途中、これまでに分譲されたマンションを眺めながら歩く。
今のように駅前ばかりではなく、少し駅から離れた場所にもマンションが建っていた時代があった。

「BELISTA京都山科 」7階建・186戸・完成2008年5月・地下鉄東西線「東野」歩11分
あるマンションの南側には、今もパーキングが広がっている。
販売された当時、「この南側のパーキングにも、いずれ何か建つんじゃないか」と思った。
南側が塞がれば、せっかくの眺望も消える。
どうしても最悪の想定をしてしまう。
それから10年。
南側には、いまだに何も建っていない。
眺望も開けたままだ。
あのときの心配は、取り越し苦労だった。
そんなことを思いながら、歩く。

「プレージア京都山科東野」7階建・70戸・完成2016年1月・地下鉄「東野」駅徒歩13分
そして、ラーメン天。
店に入ると、カウンターの中で働くスタッフの多さに驚く。
厨房はピカピカに磨かれている。
キリンビールをグラスに注ぐ。
唐揚げを頼む。
以前ここに来たとき、隣のおっさんが唐揚げをラーメンの上に浮かべて食べていた。
あれをやってみようと思った。
ラーメンの上に唐揚げを浮かべる。
うまい。
店の中を見ていると、赤ちゃんを連れた若い女性二人組が帰っていく。
そのとき、店員さんが何か「おめでとう」といったような言葉をかけていた。
カウンターでは、常連らしき人が「麺、変えた?」とスタッフに話しかけている。
こういう店が街にある。
観光客のための店ではない。
地域の人が普段使いする店だ。
山科を一日歩いて、最後にラーメン天に来た。
駅前の再整備。
疏水沿いの住宅地。
外環状線のマンション。
高さ規制の緩和。
西友の閉店。
椥辻と京都刑務所。
街は変わろうとしている。
けれど、その街の中には、今日もビールを飲み、ラーメンを食べ、店員と話す人たちがいる。
都市の未来を考えながら歩いた一日の最後に、こういう場所へたどり着く。
山科は、まだ変わっている途中なのだと思う。
おわり






















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